著者の鈴木祐さんは慶応大学を卒業後、不摂生な生活により肥満体型となったようですが、食と運動により改善し、その後は体調も改善したそうです。
そんな経験を基に、科学的客観性を持たせたものが、本書になります。
なんと、年間5000本の論文を16歳の頃より読んでいるそうです。
そんな博識に裏打ちされた、本書は根拠に基づく体験本とも言えます。
この本を読むまでは、著者のことを知りませんでしたが、世の中にはすごい人がいるものだと思わせる分筆です。
10年後読んでも、おそらくリーダビリティに溢れるのではないでしょうか。
といいますのも、科学の常識は年々新たな相反する根拠が生まれ、その根拠により世の中の多くは成立しています。
けれども、本書はその根拠(膨大なエビデンス)を持ちつつも、古代の生活様式で良かった点は取り入れる、という点よりそのように感じました。
この本との出会いは、AmazonのKindle unlimitedです。
Kindle unlimitedとは、月額約1000円で多くの雑誌を含む書籍が、読み放題になるというものです。
Kindleは電子書籍ですので、紙の書籍に強いこだわりがある方には向かないと思います。
個人的には、線も引けますし、いろんな端末(スマートフォン・パソコンなど)で読むことができますので、便利です。
また、検索もできるので、その辺は電子書籍の圧倒的に便利なところです。
欠点としては、Kindle unlimitedは合計10冊までしか、同時にダウンロードできませんので、図書館感覚で利用するのが良いと思います。
それでは、本書の感想を章ごとに書きます。
目次
プロローグ
プロローグには、著者の実体験が書かれています。
そこでは、ジャンクフードなどの加工食品をやめ、パンや精製穀物を減らし、野菜や魚を増やすような食生活に変えたことで、体が引き締まり、集中力も改善したといったものです。
食は人の体を作る上での基本ですので、食により体の変化を伴う事は、自明の理といってもよいのではないでしょうか。
けれども巷には、その根拠などどこ吹く風で、食に関する様々な本が出版されています。
白い小麦粉や白い米(白米)である、精製された炭水化物の摂取は、長期的に死亡率の増加が示されています。
そのような観点からも、著者の行った食事は根拠に基づくものであると言えます。
さらに、著者は息が上がる程度の運動も始めた結果、疲労感も消失し、仕事の生産性も改善した様です。
運動に関しても、脳機能と運動は表裏一体の関係ですので、心拍数を上げる程度の程よい運動は効果的であるとする報告はたくさんあります。
新型コロナウイルスの影響で、世間はStay at homeですが、自宅で運動もせずに過ごすということは、新型コロナウイルス感染症に匹敵するほど体に悪い可能性があります。
とはいえ、社会的距離を保つ、ソーシャルディスタンシングは、現時点で遵守すべき最優先事項で有ることはゆるぎのない事実です。
つまり、現在は時代にフィットした、人との距離を保ちつつ、なるべく自宅内で多少息切れする程度の運動を行うことが、本来必要であるはずです。
第1章:文明病
”本書では、「悪いのは自分だ」という考えを採用しません” というところからこの章は始まります。
つまり、一般的には肥満体型の人は自分の管理能力が無いというレッテルをはられてしまいがちですが、自分が悪いのではなく、環境の要因であると著者は述べています。
文明病の代表は、肥満です。
肥満の原因は、食べすぎと運動不足というとてもシンプルなものです。
けれども、人は食べることを制限できず、億劫な運動もなかなか長期的に実行できないという問題を抱えています。
そこで、ダーウィンの進化論と最新の医学データの組み合わせである、ダーウィニアンメディスンを推奨しています。
肥満がなぜ起きるのかというと、どの本を呼んでも人類の進化に行き着きます。
つまり、古代ではカロリーはとても貴重なものですあり、少量のカロリーも無駄にはできないため、体内に保有しやすいようにできているというものです。
そのため、高カロリーなものを好むように人類の遺伝子にはインプットされていると言えます。
人類はまだ、進化の途中です。
先進国では飽食の時代ですが、その進化に人体が持つ古代の栄養保持システムがアンマッチしていると言えます。
集中力の低下の原因は、どうやら古代のアラートシステムが、現代にマッチしていない影響のようです。
古代では、自分を動物などから守るためであったり、生きるために動物を狩猟したり、それらに集中しなければ、生きていくことができませんでした。
ですので、自分が死なないために、かつ生きていくために集中することができました。
しかし現代では、ネオンや高層建築など狩猟生活ではありえないほどの、大量の情報のために、脳が混乱してしまうために、集中できない状態になってしまいます。
さらに近年では、スマートフォンへの依存も集中力欠如の要因となっています。
文明が進歩することでの利点もあれば、利点以上に欠点が前面に出てしまう可能性があります。
利点を活かしつつ、現代の便利グッズとは共存していくための方策が必要だと思います。
炎症を鎮火させるには、良質な睡眠を7−9時間/日とることの重要性が書かれています。
睡眠の重要性は様々な本でも書かれていますが、最も身近に取り組めるものではないでしょうか。
そもそも、100歳の方でしたら人生のうち30年は寝ているわけですから、寝具にはお金を使いましょう、という方のロジックは正しいと言えるのではないでしょうか。
うつ病の増加
現代では、生活水準が向上しているにも関わらず、うつ病の増加が問題となっています。
うつ病もまた、現代が作り出した負の遺産といっても良さそうです。
生活水準の進化のスピードが早いほど、脳が混乱をきたした結果、うつ病の増加が起こります。
もちろん生活環境の極端な進化だけではないと思いますが、一因であるとは言えそうです。
第2章:炎症と不安
ただの長寿ではなく、長寿でもびっくりするくらいクリエイティビティの高い人がいます。
105歳で亡くなられましたが、医師である日野原重明先生はその代表です。
どうやら、長寿で最高の状態でいられる人たちは、体の炎症レベルが低いようです。
炎症で有名なのは、動脈硬化です。
動脈硬化とは、血管が燃えていると例えられます。
つまり、炎症が起きているということです。
その火消しを行う消火剤が、スタチンと呼ばれる抗コレステロール薬になります。
そのような炎症が局所であればよいのですが、全身で炎症が起きることで、少しづつ体はダメージを負っていくとされています。
炎症が顕著に現れる症候群が慢性疲労症候群です。
慢性疲労症候群は、原因ははっきりしませんが、過大なストレスなどに伴い、全身の炎症を起こします。
炎症ですので、熱もでますし、極度の倦怠感も出ます。
イメージとしては、うつ病は脳の疲労ですが、身体の疲労が慢性疲労症候群とも言えるのではないでしょうか。
例えるなら、古くなった水道管を修復せず、一気に水が溢れ出すのと似ています。
このような近代の炎症の問題点は、目に見えないということです。
過去の炎症は、炎症の4徴と言われる発赤・腫脹・疼痛・発熱といったものです。
これら炎症は、見ればわかります。
最近問題となっている炎症は、体内で延々とくすぶるタイプのもので、知らず知らずのうちに体を蝕んでしまいます。
そのため、対処も難しいと言えます。
内臓脂肪は、異物であり、内蔵脂肪があることで、臓器に炎症が起きると書かれています。
本書での大きなテーマ
- 多すぎる
- 少なすぎる
- 新しすぎる
多すぎる;カロリー、脂質、糖質などの過栄養
少なすぎる;運動、食物繊維、タンパク質、睡眠など
新しすぎる:トランス脂肪酸などの、合成物質
多すぎる過栄養は、現代の肥満の深刻さやダイエットが常に流行している事より、誰しもが意識しているものだと思います。
入院となった患者さんの多くも、過栄養となるような栄養管理が推奨されています。
一方栄養状態に余裕の無い、異化の患者さんには、入院当初よりカロリー、特にタンパク質を入れた方が良いとも言われており、このあたりの栄養療法については、一定の推奨はありますが、国際的に一定の推奨という状況とは言えません。
少なすぎるものとして、交通インフラや、新型コロナウイルス感染症に伴う、リモートワークに代表されるように、時代が進むにつれて運動は行わなくなってきています。
だれしも運動はしんどいので、積極的にやれるものではありません。
一定の方を除き、意識して目標を持たないと継続して実践することは困難です。
運動は、脳機能との関連性も示唆されており、人間にとっての基礎ともいえます。
とはいえ、運動するにもエネルギーが必要です。
その代表的なエネルギー源が、タンパク質です。
元々、狩猟民族であった人間のエネルギー源はタンパク質であり、かつ狩猟には集団で食料である獲物を捉える必要がありました。
その後、農耕民族となり、米を中心とした主食が定着し、より小さい集団での生活を営むようになりました。
これらについては、別の章でも解説しています。
肥満の主な原因は、インスリンであるとされています。
つまり、糖質である穀物の摂取がインスリン分泌を促し、肥満の主要因である、死亡の蓄積を促進した結果であるとも言えます。
他にも便秘も現代病と言っても良いでしょう。
食物繊維摂取減少や運動不足が、その一因を担っているでしょう。
新しすぎるために、肝臓が上手に処理できないものの代表は、マーガリンが挙げられます。
見た目はバターのようですが、元々は液体のものを化学式を一部変換して個体にしたものです。
一般的に推奨されていませんし、古典的に考察すると、やはり人体には新しすぎると言えるでしょう。
不安
現代の不安の問題点として「何が不安なのかわからない」「ぼんやりとしたものである」ということです。
ぼんやりとしたもので、その原因・実態が理解できていないわけですから、対処が取れないのは当然です、
不安は、人によりますが、アルコールや暴飲暴食に走ってしまいます。
そうなると、結果的に炎症に結びつきますので、寿命の減少や、倦怠感などの体調不良に帰結します。
一方で、古代の不安とは猛獣に襲われるなどの、シンプルでわかりやすい不安であるといえます。
不安が大きいと、海馬が小さくなると書かれています。
アルツハイマー病認知症も、海馬の縮小が画像診断の主要なものとなります。
アルツハイマー病認知症は、近年増加しており、現代の生活環境が及ぼす不安との関連性があるのかもしれません。
不安は何のためにあるのか
不安は、そもそもアラートシステムであるようです。
「近くに猛獣がいるのでは?」 「このキノコは食べられるのか?」といったものです。
アラートシステムが機能しないと、猛獣に簡単に襲われますし、お腹が空いたら何でも食べてしまい、いつか毒のあるものを食べて死んでしまいます。
ポジティブ感情>>ネガティブ感情
ネガティブワード1つを打ち消すには、ポジティブワード6つでようやく相殺されるそうです。
ネガティブ感情は、心をかき乱す劇薬といえます。
日常の業務でも、このようなシチュエーションはあるのではないでしょうか。
ネガティブなことばかり言っている人の周りには、人は集まりませんし、ポジティブなことばかり言う人の周りには人が集まります。
何より、仕事の成果に帰結しますので、意図的にポジティブワードを使った方が良いでしょう。
第3章:腸
腸は第2の脳とも言われます。
膨大な数の細菌と共存し、その多くはいわゆる善玉菌です。
ところが、抗菌薬の使用などで、善玉菌が死滅してしまうと、悪玉菌が台頭してきます。
悪玉菌の台頭は、特殊な細菌による下痢や、便秘など様々な弊害を及ぼします。
医療の発達に伴い、点滴により絶食の期間が伸びたとしても、人はそう簡単に死ななくなりました。
絶食の弊害の1つが、バクテリアルトランスロケーション(BT)という状態です。
BTは、腸管を使用しなくなったことで、腸粘膜が破綻し、細菌が血管のなかに侵入し、細菌による感染症をひきおこすとされる病気です。
本書では、BTと同義なのかはわかりませんが、”リッキーガット(腸管壁浸潤漏症候群)”として紹介されています。
リッキーガットの状態は、疲れやすさとの関連が指摘れており、食物繊維やヨーグルトが効果的とされています。
近代は、衛生が及ぼす影響も問題となっています。
例えば、ヘリコバクター・ピロリ菌(HP)という胃癌の原因とされる細菌は、以前はおそらく全員が持っていた(共存していた)細菌とされています。
ところが、近代の衛生環境の構築に伴い、HPを持たない患者さんが出てきた事により、胃癌のリスク因子であるということが判明したと言われています。
HPは完全に悪者にされていますが、喘息の予防などとの関連性も指摘さており、一概に悪者とするのは正しいことなのかは、わかりません。
ただ、長期的にみると貧血や胃癌などの弊害を来すとされているので、あまりよい細菌とは言えないですね。
特に最近では、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、人々の清潔への概念はより一層促進していますので、今後は清潔に伴う弊害の可能性もあります。
このあたりは、程度問題ですので、だめ/よいの二元論ではなく、ある程度清潔を意識すればよいのだと思います。
※ただし、新型コロナウイルス感染症流行中は、可能な限り清潔を保つ必要があります。
衛生的な環境というのも、比較的近代ではありますが、このあたりの清潔の概念はスマートフォンなどと比べると比較的徐々に進化してきた概念であるとも言えます。
たとえば、本書でも紹介されていますが ”清潔な暮らしをしていた西ドイツの方が、東ドイツより4倍も花粉症は多かった” とされています。
また、腸内細菌を調べると、先進国の現代人は数種類しかおらず、狩猟民族では50種類とされています。
医療現場では、クロストリディオイディスディフィシル感染症(CDI)という、悪玉菌による主に下痢症状を来す、重篤な感染症があります。
CDIは抗菌薬による腸内細菌の破綻が原因とされています。
また、CDIでは糞便移植といって、親族の糞便を処理後チューブを通して腸管に移植することで、改善したという報告もあり、古典的ですが腸管の細菌の重要性が示唆されます。
また、糞便移植された後は、太りやすくなったりと、移植された細菌により体質が変化するとも言われています。
それほどまでに、普段意識しない腸内細菌ですが重要なのです。
もっとも、糞便移植も細菌は、重篤な合併症が生じたため、推奨されない傾向にはなってきているようです。
ここでも対策は、腸内細菌の正常化ですので、食物繊維が推奨されています。
食物繊維が推奨というよりは、食物繊維の摂取が極端に少なくなってきていると考えた方がわかりやすいかもしれません。
細菌との共存は、永遠のテーマですが、特にカビは喘息など弊害が大きいため、部屋の換気を中心に調整し予防することの重要性が、書かれています。
細菌との共存の話をすると、よく腐敗と発酵の話になります。
どちらがどうというよりも、人が食べて安全なのは発酵食品ということです。
腐敗しているものは、通常アラートが働き、臭いや味覚を通して拒否反応を示すはずです。
また、食後には嘔吐や下痢など、様々な弊害を来します。
本書でも、発酵食品である、納豆・キムチ・ヨーグルトなどを推奨しています。
また、ヨーグルトでよく言われますが、ヨーグルトローテーションを行い、なるべく多様な細菌を摂取することの重要性が示されています。
本書でも、納豆・キムチを推奨してはいますが、やはり程度問題で、様々な発酵食品をローテーションすることを推奨しています。
現在の環境を変える事で、腸内細菌は3日で多様性を取り戻すとされていますので、諦めずに挑戦してみることが必要です。
第4章:環境
孤独による弊害
狩猟民族だった頃は、チームで漁を行うため、周りに知らない者はいませんでした。
しかし現代では、ゲームやテレビなど、孤独となる環境が整っており、長い年月で築き上げてきた集団での生活は破綻していると言って良いでしょう。
つまり、新しすぎるために、人体が適応できない状態であると言えます。
そのような環境による弊害を解決するのが、自然とのふれあいです。
自然とのふれあいは、副交感神経を優位にし、リラックス効果を高めます。
面白いのは、類似した画像でも効果はあるそうです。
また、デスクの上に置かれる観葉植物にも効果が示されており、ストレス軽減のために、自然と接する機会が少ない方には、オススメされるものであると言えます。
公園などの少しの自然で良いようですが、現代、特に都会では自然の消滅に伴い、興奮や驚異のシステムが活性化しやすくなっているとされます。
孤独による弊害は、自然とのふれあいも効果的なようですが、最も効果的なのは、友人ができる良好な社会関係の構築であるとされています。
長寿への効果は、15年で健康への効果は禁煙よりも友人を作る方が影響が多いとされています。
人間関係が良いと仕事で3倍成功しやすく、年収も高い傾向にあるとされています。
これは、実感とも合うのでは無いでしょうか。
いわゆるブラック企業で、ぎこちない人間関係のなか、体ばかりを酷使しても、良い成果は得られません。
一人でできる成果には限界がありますが、全員がx0.1の成長を遂げる事で、成果には限界など無くなるのだと思います。
つまり、人間関係が良くないと個々の能力は発揮で来ませんので、人間関係の重要さがわかるエピソードであると言えます。
一方で見知らぬ相手と人間関係を作るようには、脳は設計されていないようです。
もともと、狩猟民族であった頃より小集団で生きてきたため、みんな知り合いだったのです。
そのため、内側へ向けた対人スキルのみを築けばよかったため、外交は本来苦手な生きものなのです。
親密な人間関係の構築には、5人前後が上限とされています。
遠くの親戚より近くの他人とはよくいったもので、人間は近くに住む相手ほど好意をいだきやすいとされています。
最初は、苦手な相手でも10−20回の接触で、好意を抱くとされています。
さらに好意を抱くためには、同期行動といって、同じ行動をとる事の効果が示されています。
第5章:ストレス
ストレスホルモンとしては、コルチゾールやアドレナリンなどが有名です。
コルチゾールは腎臓の上にある、副腎という臓器より分泌されています。
とても小さな臓器ですが、その役割は重要で、血圧を上げたりするためのホルモンです。
この副腎の機能を調べる検査がありますが、検査前は少なくとも30分間は安静にし、少しの刺激ですら避けるように慎重に行われます。
たとえば、足を上げたとか、注射の痛みなどで、コルチゾールは容易に出るとされていますので、検査の際は採取した環境も影響を与えるため重要です。
すなわち、それほど簡単にストレスホルモンが出されるには理由があります。
過去動物に襲われた際に、ぼんやりと準備運動をしてから逃げているようでは、動物の餌になってしまいます。
ですので、逃走・闘争ホルモンである、コルチゾールは瞬時に分泌する必要があるのです。
一方現代においては、この安易に出されるストレスホルモンの影響を受け、ストレス過剰になっています。
動物から逃げる際には、自らの生死をかけて逃げる必要があります。
いわゆる火事場の馬鹿力をだす必要があるため、その助けをしているのがストレスホルモンになります。
通常、刺激から解かれた際には、ストレスホルモンは分泌を速やかに収めます。
自然環境は、副交感神経を優位にするのでした。
これらの影響もあり、常に動物から襲われるリスクを背負いながらも、ストレスを感じ続けることはなかったといえます。
しかし現代では、過剰なストレス状態にあります。
例えば、出勤するだけでも満員電車からはじまり、出勤後は緑のない都会のオフィスで、常にタスクに追われて仕事し、ストレスホルモンは分泌を続けることになります。
ストレスホルモンは、火事場の馬鹿力の際にのみ通常必要なはずです。
例えば、オリンピックで好記録がでるのは、極限まで、ある意味生死をかけてストレスホルモンである、闘争ホルモンを分泌させているともいえます。
闘争ホルモンは、交感神経が優位になりますので、血圧は上がり、口は乾燥し、腸の運動は弱まるなどの影響で、高血圧や虫歯や便秘に容易に陥ってしまいます。
ストレスを緩和するためには、ストレスを前向きに捉えることも、うまく付き合うために必要とされています。
ストレスホルモンも、不必要なわけではなく、必要なものなのです。
このように、ストレスと前向きに向き合う方法を、”リアプレイザル”として本書では紹介されています。
ストレスと良質な睡眠との関連性もしてきされています。
当然ですが、闘争・逃走ホルモンが出ている状態では、とても興奮して眠れることなどできません。
疲れているのに、眠れない、そのようなシチュエーションです。
コルチゾールというホルモンを補充する薬があります。
ステロイドと言われる薬です。
ステロイドは、通常夜には使用しません。
興奮して眠れなくなるからです。
通常これらのストレスホルモンは、朝から徐々に分泌し、夜にかけて少なくなるようにできています。
そのため、副腎機能が低下しストレスホルモンを出すことができなくなった人には、通常、朝と昼などの処方でステロイドを服用してもらいます。
朝が多く、徐々に下がっていきます。
ストレス緩和には良質な睡眠が重要です。
耳栓やアイマスクはとてもチープなものですが、病院内でも不眠患者さんには使用を検討するほど、時に効果の得られるものです。
睡眠には、メラトニンというホルモンも関与していると言われています。
朝日を浴びるとたくさんでるやつです。
メラトニン受容体作動薬である、ラメルテオンは不眠に対する比較的新しい薬として、副作用も少なく、最近は不眠の第一選択として使用される事も多い薬です。
また、時差のある海外にいくと、ジェットラグ(時差ボケ)の影響で、昼間に眠くなってしまいますが、ジェットラグの予防にも良いとされています。
不眠に対する薬剤として、さらに新しい薬である、オレキシン受容体拮抗薬である、スボレキサントという薬剤は、より効果的とも言われています。
睡眠には、様々なファクターが関与していますが、どうやらオレキシンはその中でも不眠に対し、大きく作用しているとされています。
近代の夜間の光やスマートフォンのブルーライトも、新しすぎるものですので、不眠へ影響を与えると言われても、妙に納得してしまいます。
第6章:価値
価値と目標は異なります。
著書では、弁護士を例にあげています。
弁護士試験に受かることだけを目的に試験勉強をするのと、弁護士の先に弱い人を救うなどの価値観を付加することで、不安も払拭されると書かれています。
ぼんやりとした不安が現代における、問題でした。
明確な不安であれば、解決可能な対策が可能ですが、ぼんやりとした不安に対しては、人は対策を取りようが無いのです。
試験勉強を例にあげると、〇〇大学合格でも良いのでしょうが、その先の未来の価値を今に近づける事でぼんやりとした不安は払拭されます。
目標よりも先に、価値を置くべきなのです。
〇〇大学合格、医師国家試験合格、弁護士試験合格、看護師国家試験合格などなど、それらは、価値ではなくプロセスであり、単なる目標になります。
ですので、看護師でしたら国家試験合格後、知り合いを心筋梗塞で亡くしたので、心筋梗塞の疫学や予防の方策を研究する、などのほうが未来を現代に近づけた目標になります。
おそらくですが、何度も国家試験浪人をしている人は、この価値の置き方に問題があるのかもしれません。
一方で、浪人すると今まで一緒に勉強してきた仲間の多くは、異なるフィールドで活躍することになるので、モチベーションを失う可能性があります。
けれども医師の場合、大学入学の為に浪人していたという方は、比較的多いです。
一人でも(予備校で新たな仲間・ライバルとの出会いはありますが)価値の置き方を明確にすることで、ぼんやりとした不安の対策になり、モチベーションも上がるのだと思います。
より上位の概念をとりいれる
著書では例として、”食べ過ぎをやめる→体重を減らす→見た目を良くする→自信をつける→気分良く暮らす” などの例を挙げています。
このあたりの上位の概念は、統計学でいう多変量解析の変数選択とも似ています。
例えば、肺癌のリスク因子の探索では、飲酒と喫煙はそれぞれリスク因子として挙げられます。
しかし、これらに関連性はありますが、因果関係にはありません。
それぞれ独立した概念ですが、関連性の強いものは、より上位の概念を意識する必要があります。
喫煙と飲酒の例ですと、肺癌のリスク因子は喫煙です。
飲酒との関連性(相関)はありますが、飲酒を行う人は喫煙率が高い可能性があるということを、考慮する必要性があるのです。
林修さんがテレビで言っていましたが、「因果」「類比」「対比」を意識する必要があります。
似た者同士を比べ、異なるもの同士で比較し、それらには因果(原因は結果にむすびついているか)に値するものなのかは、よく吟味する必要があります。
第7章:死
この章は、スティーブ・ジョブズ氏の伝説のスピーチ紹介から始まります。
人の死亡率は100%です、死なない人はいません。
死ぬまでに、どのように生きるかが問題です。
しかし、その寿命は人により大きく異なります。
日本人の場合は、平均すると80年程度ですが、最頻値は90年程度とされています。
つまり、日本人の最も多数の人が90歳頃に死亡します。
しかし、同じ90歳でもその健康寿命は多様性に富みます。
寝たきりの人もいれば、元気にダンスしている90歳もいます。
現役バリバリの医師もいます。
過去、退職後は年金をもらい自由な生活を送っていました。
しかし、人口動態の変化や年金制度の破綻に、健康かつ長寿命も相まって、これから、ではなく、まさに今からの時代は退職後も社会の役に立つような仕事の継続や、退職後の生活資金は自ら調達する必要があるでしょう。
普通に生活している方の多くは、死は意識していません。
生の有限さの意識は良い生き方につながるのかというと、本書では現存する根拠を鑑みると、どちらとも言えると結論づけています。
本書のたとえでは、東日本大震災後の地域のきづなの強まりを、死を意識する事での心の拠り所として挙げています。
一方、911同時多発テロ後は、死というワードが自殺や殺人を想起させ、ネガティブに作用したと書かれています。
個人的には、死を意識することには、多くの利点が作用するものだと認識しています。
例えば、スーパー高齢者として例を挙げた日野原重明先生も、よど号ハイジャック事件で一度死んだとおっしゃっていました。
死を意識するだけではなく、ほんとに死んだのだと思います(生物学的には死んでいませんが)。
その後より、社会的還元活動により一層力をつけられ、100歳を超えてからも多くの研究を主導して来られました。
スティーブ・ジョブズ氏も同様に、死を意識することで、生の有限さを認識し、現在では現代人にとってのあたりまえである、iPhoneやiPadなどを、当時はイノベーションとして社会貢献しました。
ヴィクトール・フランクル氏も、苦難や災難時には、人生から問いかけられていると言います。
人生を問うのでないところが、とても深く考えさせれられます。
このように、死を意識し、生は有限であるということを自らに問いかけられている、と感じたもののパワーには凄まじいものがあります。
人間は無意識に死への不安を感じていると言います。
その拠り所の1つが宗教であり、多大なメリットがありますが、一方で思想の違いなどで宗教が必ずしも人々を幸せにしているとは言えないところが難しいところであると思います。
本書では、死への不安を減らすための方策も書かれています。
それが、「畏敬」と「観察」とされています。
畏敬とは、いわゆる感動的な体験の共感とも言えると思います。
本書では、”鳥肌が立つような感情”と表現されています。
”「畏敬」へのアクセスは、自然とのふれあい”とされており、自然とのふれあいは、本書でも一貫して重要な位置を占めるものであると言えます。
第8章:遊び
遊びが重要なのは、だれしも認識しているものであると思います。
一方で、遊んでる暇があるなら、仕事をしたいという人もいます。
狩猟採集社会においては、狩猟採集という現代でいう仕事を、遊びとして捉えていたようです。
現代では、仕事と遊びは別物であり、遊びのために仕事を頑張ると言った人もいます。
けれども、最も効率的で効果的なものは、仕事を遊びにしてしまうということだと思います。
例えば、一般的な会社では出社時間が決まっており、やるべきこともストレスを感じるような仕事が多くあると思います。
一方で、Googleなどでは、遊びの要素が多く取り入れられています。
つまり、生産性です。
生産性とは、ある一定の成果を提示するためには、8時間かけるのか、1時間で終えるのかという議論のようなもので、当然ですがより短い時間でよりよい成果を提示できることです。
一般社会では、体を動かすことこそが働いていることと認識している方もいらっしゃいますが、生産性の観点からは同じ成果を提示できるのであれば、より短い時間の方が良いに決まっています。
つまり、同じ生産性を提示するために必要であった他の多くの時間を、他のプロジェクトに利用したり、遊びに使ったりすることで、体ではなく頭を使って生産性を高めることが必要です。
そのためには、遊びも必要ですし、生産性の提示自体も遊びにしてしまえばよいのです。
また、遊びと幸福度には関連性が示されていると書かれています。
仕事や育児や勉強など、日常の全てを遊びにすることで、生産性を高め、幸福度も高めることができます。
一方で現代の遊びとされる娯楽には、負の面が多くあります。
娯楽の代表は、ギャンブルである、競馬やパチンコなどが有名です。
これらは、依存により人生の破綻にもつながります。
この章では、メタ認知についても書かれています。
メタ認知とは、認知の認知ともいわれ、自らを客観的に(俯瞰的・鳥瞰的)みる能力のことです。
たまに、なんとも自分勝手な人に出会う事があると思いますが、そのような方は、自分の事しか考えておらず、自分の行動により多くの不利益が被られている事を理解していません。
それは、その方の信念なのかもしれませんが、客観的に自らをみる能力があれば、普通に考えて、そのような態度を取ることは疑問に感じるはずです。
本書では、メタ認知について”1段上の認知機能”と書かれています。
つまり、メタ認知のできない人は、よくも悪くも自分のことしか考えないので、組織全体としての未来や成果については、どうでも良いのだと思います。
まとめ
古典的な狩猟生活には、現代においても様々なヒントがある。
例えば、運動の減少は、脳機能にも影響も及ぼすため、運動は積極的に行ったほうがよく、目安としては息が軽く上がる程度を目安にすると良い。
他には、炭水化物の摂取増加とタンパク質の摂取低下に伴う弊害もあり、これは現代における低糖質ダイエットとも似ていますが、やはり狩猟採取民族にヒントがあります。
また、現代における弊害としては、新しすぎるものにより飽和しているということであり、上手に利用していくことが重要だと思います。